【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

ステルス・ヘルス

野菜嫌いの子どもに野菜を食べさせるのは、なかなかシンドイ仕事だ。
「カラダにいいから、ね」という言葉は殆ど効果がない。ならば!と肉と絡めた野菜料理を出す。すると、子どもは器用に肉だけを取分けて食べ、野菜を残す。
どうしたら、子どもに野菜を食べさせることが出来るか?
アメリカの幼稚園で「透視パワー付きニンジン」と名づけて与えたら、食べる量が50%増えたと言う報告があった。ネーミングの力は大きい!
このように、子どもたちに無意識のうちに健康的な食品を食べさせる手法は「ステルス・ヘルス」(こっそりと健康法)と名づけられている。
だが、これを単に子供向けの生活習慣改善テクニックと侮っちゃいけない。大人にだって嫌いな物はあるし、それも食物だけとは限らない。
正直に告白すると40年に及ぶ在京生活の中で、城東地域にはあまり住みたくないと思ってた。何しろ山国育ちだ。低地は何となく無意識的に避けておきたかったのだろう。
ふと「芭蕉庵」という文字を見つけた。
清澄庭園や大江戸博物館もそんなに遠くない。「月日は百代の過客にして行きかふ年も又旅人也」である。「ここに滞在するのもいいかぁ」。
都営新宿線森下駅近く、「芭蕉庵」はかつて住んだその人の如く、ひっそりとしていた。
勿論江戸時代の面影などない。というよりもそこが本当に、その場所なのかも特定されてはいないらしい。残念ながら入館時間が過ぎてたので、入ることは出来なかった。
森下駅の近くのうどん屋に入った。店主と従業員がふたり。客はいない。
午後5時半。ポツリポツリと客がやってきた。と見る間に10人ほどが集まってきて、狭い店が満員になった。
どうやら常連客らしい。ネクタイもいれば、ロングドレスもいる。急に盛り上がり始めた。話題は競馬の万馬券から「巨人」へ。巨人から「小沢」へ。さながら、江戸時代の井戸端会議の風情である。なにやら懐かしい。この人たちは、家に鍵をあまり掛けないんじゃないか?
遠い昔の田舎を思い浮かべた。「懐かしいのはそれだったんだ!」。
芭蕉庵」の名は、どうやら癒しの「ステルス・ヘルス」へと繋がったようだ。
その夜は、そのうどん屋にず〜っと錨をおろしていた。森下が美味しくなった。