【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

化ける!

もう何十年も売れなかった。だが、彼女はメジャー歌手を目指してた。
ドサ回りや地方のキャバレーなどで酔っ払いのオジサンたちにお酌をしながら、いつかはNHK紅白歌合戦への出演を夢見ていた。「諦めてなるものか!」
ある日突然、レコードが売れ始めた。

それまでの苦境がウソのような爆発的な売り上げ。瞬く間にそれ一曲で、トップスターの仲間入りを果たした ―
音楽の世界では、そんな成功物語をよく聞く。小林幸子はそのいい例だ。「大化け」したのである。
北海道ではいま、この「下積み歌手予備軍」が、注目を集めてる。
写真の「ヤナギマツタケ」の親木、「ハコヤナギ」(本名は「ヤマナラシ」)が、それだ。ヤナギ科の落葉高木。北海道で自生するのは、近縁種の「チョウセンヤマナラシ」らしい。
江戸風情を醸す「シダレヤナギ」とは違って、傍若無人、無骨で乱暴者、野人、といったイメージがある。しかも、大した役に立たない。だから、コチラでは「邪魔者」「独活の大木」「木偶の棒」として疎まれてる。
この「ハコヤナギ」に開発局が目をつけた。バイオエタノールの原料として昨年度から 産業化を視野に入れた実験事業を始めたのである。
実験結果は「大化け」を予感させるに充分なものだった。400gの「ハコヤナギ」から純度99.5%で100mℓのエタノールを抽出できることが確認された。
「ハコヤナギ」は道内の河川敷や山間部に広く、豊富に自生する。寒さに強く成長はきわめて早い。何しろ半年で1.2mもの背丈になる。しかも、トウモロコシなどと違って、食料供給には影響しない。つまり「邪魔者」が「エネルギーの優等生」に「大化け」しそうなのである。
開発局は言う。「ヤナギは平らな土地なら大量に栽培できる利点がある。三年間の事業を通じて、安定した栽培方法とエタノールの抽出方法を確立したい」。
北海道はバイオ燃料の一大拠点になれるか?ポスト「京都会議」のCO2削減目標に貢献できるか?エネルギーの循環型ニューモデルを提示できるか?そして、それは疲弊した北海道経済の救世主になれるか?
今夜は「ヤナギマツタケ」のコリコリした食感を味わいながら、北海道の未来を噛み締めてみよう。
サケと鶏を入れた炊き込みご飯がイイノだけどなあ。ま、出される料理にはなんにでも感謝しなけりゃ。
コイツもマツタケとは縁も所縁もないのに、優れた食菌ということだけで「マツタケ」という名に「大化け」したんだから。