【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 誤算の未来!

フキ村では一族の総会が開かれていた。冒頭の挨拶に立ったフキ衛門爺は、額の皺をさらに深めながら言った。

(葉の広さ、直径1mを越える大赤ブキ。採る人間は誰もいやしない)
「今日はワシらの生き残り策について皆から意見を聞きたい。というのも、ワシらフキ族は古くから、数少なき日本原産の野菜として「日本人にとって如何に有用であり続けるか」をテーマに、共生を図ってきた。
ところが最近、日本人どもは保存技術の進化をいいことに、己が食す量を遥かに超えて乱獲し、ワシらを根こそぎ採っていくようになった。このままじゃ、ワシらはいずれ子孫を残せぬ絶滅危惧種になるやもしれん。そんな事態を避ける妙案がないのかのう?」
喉のあたりまで赤く染まった、俗称“シブキ”が、待ってましたとばかりに大声をあげた。
「オレラ、フキ族には、昔からオイラのような赤ブキ部族とフキ衛門爺のような青ブキ部族がいる。赤ブキ族は、数が少ないだけじゃなく、人間どもの間で「苦くて食えぬフキ」との風評被害が出る始末だ。だから、人間は誰もオレラ赤ブキ部族には手を出さん。ま、赤ブキ部族が苦いのは確かなんだが、ここからが方策だ。フキ族全員が赤ブキ部族になってしまったらどうなる?
そうだ、人間は手を出さんはずだ。そうなりゃ、オレラ、フキ族は生き残っていける。大体、オレラにはエゾシカだって口を出さんのだから、大繁栄間違いなしだ!」。

(赤ブキの一大集落、コチラでは蕗原(フキワラ)と呼ぶ。こうなると分け入る人もいない)
風に乗って一大拍手が起こった。「そうだ、そうだ、皆で赤ブキ部族に部族変更しよう!何年かはかかるやも知れんが、早速明日から遺伝子変換しよう!」
“シブキ”の洞察は確かだった。何年か後、フキ村は大量の赤ブキ部族だけが繁栄していた。だがその一方で、フキ村は新たな危機に直面していた。人間が誰も手を出さなくなった結果、繁殖しすぎてフキ族を支えている土地の酸化や栄養枯渇、荒廃が深刻化していた。
このままじゃフキ村は自己崩壊か、自然消滅するしかしかない!フキ村が未来永劫存続するためには、青ブキ族という人間が手を出してくれる適当な間引きが必要だったのだ。
誰かが力なく呟いた。「未来予測は難しい!現状打破という狭い了見だけで針路を決定すりゃぁ、後に災害をもたらしかねない!この国の政治も同じだよナ…」。因みに、呟いたのは“シブキ”の子孫の“イブキ”だった。