【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

自壊!

▼「ひゃあ、また一台溶けたぁ」。征高志(せいたかし)は、有頂天だった。何しろ彼が発明したのは、車を丸ごと一台溶かしてしまうという画期的な薬品だった。その薬品を彼はいま、実用化に向けて秘かに実験してるところだった。
▼尾てい骨を突き上げてくるマグマのような達成感の中で、彼は呟いた。「ここまでくるのに随分かかったなぁ・・・。何しろあの渋滞地獄は社会の敵だ!その抜本的な解決法は、前の車を溶かして前進する以外にない!そう気づいて研究に没頭してから、もう9年だ」。彼はその薬品を“アレロパシー”とネーミングした。

アメリカ原産、セイタカアワダチソウの群落。他の植物を駆逐するアレロパシーを分泌し、一帯を支配)
▼実験は大成功だった。渋滞してる車列の後方につけると、彼は前の車にノズルから次々と“アレロパシー”を発射し、前の車は次々と溶けていった。「共同経営者のアメリカ人、“アワダッソー”も、これでとんでもない金が入ると大喜びしてくれるだろう・・・」
▼有頂天で実験してるうちに少し妙な気配を感じた。何かが変調をきたしてる。そういえば先ほどまではなかったスースーした風が入ってくる。思わず後ろを振り返った。するとそこには後部座席がなかった。そして・・・ゴーグルをかぶった共同経営者“アワダッソー”が、高志の車に“アレロパシー”の液を振り掛けてる姿が大きく見えた。