【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

新・開拓民の嘆きと充足!

「コイツが悪さをするんだ。放っておくと大変なことになる!」
庭師は、その草を憎悪の目で見ながら憎憎しげに言った。いや、“庭師”と言っても現職のプロじゃない。
当家の庭整備事業をボランティアで指導しに来てくれてる“ボラ庭”だ。「ともかくコイツは根とタネの両方で繁殖する
ゾンビみてえなヤツだ。[土に雑巾掛けするようにマテに手抜きなく、しかも根まるごと掘り起こして、駆除しなけりゃまた生えてくる」。「ホラ!こんな風にやるんだ」。“ボラ庭”は、シャベルを手にとって手ほどきしてくれた。掘り起こすと直径1cm、長さ1mにも及ぶ根が顔を出す。そいつを力いっぱい引きちぎりながら引っ張り出す。体力には自信をもってる“ボラ庭”が歯を食いしばる。シャベルを持つ手が震えてる。
それをみた時、絶望的になった。掘り起こしの一シャベル、何と10cmにも満たない。これを雑巾掛けみたいにやるのか?
30坪以上もあるのにだぞ!そのペースだと一坪掘り起こすのに2時間はかかる。30坪で60時間だ!カンベンしてくれえー!TCC(東京コピーライターズ・クラブ)会員900人の中で、こんな開拓民生活を実践しているのは、不肖飯沼勇一、唯一人と断言できる。
しかし、考えてみれば北海道入植、移住の先人たちは、皆こうしてこの北の大地を開墾し、耕地化してきたんだろうな。大変な苦労と忍耐だったと思う。お陰で俺たち世代がノウノウと惰眠をむさぼり、飽食に明け暮れていられるのだ。
まだ5分の1坪も掘り起こせないうちに、全身は汗に沈んだ。ふと山際を見るとエンレイソウの白い花が咲き乱れている。
この風景を味わっているのもTCC会員の中では、飯沼勇一、唯一人だろう。最近ブームに乗って動いた多くの移住者が再び都市へ舞い戻ってると言う。恐らく、キツくもあれば楽しくもある、田舎暮らしに耐えられなかったのだろう。
「ゆっくり時間かけてやれば、いつかは終わる」。腰を伸ばしつつエンレイソウを見てる新・開拓民に向かって“ボラ庭”は、断言した。「この草だって退治できる。急がねえことだ」。