【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 「キタキツネ物語」

もうどのぐらい前になるか、同名の映画があった。プロデュースは確か、角川映画だった。
人里近くで暮らすキタキツネの家族を追いかけたセミドキュメンタリー。四季折々、一家を追う映像は観客の息を呑ませるほどにリンとしてた。
「あんな可愛い野生動物の近くに住めたらいいなぁ」。それが現実になった。2年3ヶ月前のことである。
移ってきた3日後の朝、庭を悠々と横切るその野生を見たのである。
いやあ、何とも言えないほど嬉しかった。「ウソみたいだ、こんなところに住むなんて!」
「キキちゃん」と名づけた。キタキツネだから「キ・キ」である。
地元の人にその話をすると「でも、いくら可愛くても手を触れちゃいけないよ!」と言われた。「エキノコックスが伝染らないようにするためにね!」。
エキノコックス…「キタキツネやノネズミなどを宿主とする寄生虫。口に入らない限りは伝染しないが口に入ると肝臓に寄生し、肝機能障害を起こす。幼虫の発育は遅く、自覚症状が出るまでに十数年かかるが、ともかく口に入れないようにするのが大切」
で、ひたすら遠くから観察するだけにした。
「キキちゃん」は、映画で印象的だった獲物のジャンプ捕獲やら、タンチョウとのテリトリー争いやら、野生の魅力を余すところなく見せてくれる。
今日も裏山に姿を現した。最近、連れだって歩く連れ合いと一緒だ。それを見ると何だかホッとするのだが、こんなに人里近くで悠々と暮らし始めたのは、人間が彼らのテリトリーを奪ってるせいなのかもしれない。
複雑な気持ちにもなるのである。