【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 「呉越同舟」

▼「普段は憎しみ合う間柄でも、共通の危機に遭遇した時は憎しみを忘れて助け合う」。そんな情況を中国では「呉越同舟」と喩えた。同じ船に乗った「呉」と「越」の両国人が共通の利害に遭遇した際、いがみ合いを中断し、助け合う・・・。
仲の悪い夫婦にも、ライバル関係にある動物にも、そんなことがありそうだ。
▼トビとカラスは「犬猿の仲」と言っていいほど、いがみ合う関係にある。大抵はカラスが集団で孤高のトビを追い回すと言うのが定番だが、時にはトビが2〜3羽で集団の鴉を追い回すこともある。これはトビとカラスが食餌において、競合関係にあるためと考えられている。通常だと「呉越同舟」は、ありえない。

▼ところが、である。極寒の道東のある日、それと思われる光景が見られた。20羽近いトビと50羽ぐらいのカラスが、それこそ飛行機の空中戦のように乱舞している。だが観察しているとどうもどちらかが相手を追い回している風はない。
▼彼らは暫く旋回を繰り返した後、1本のドロノキに次々と舞い降りた。その数何とトビ15羽、カラス20羽以上!ドロノキはまるで、鳥の置物が生っているようになった。驚いたことに地上にはカモメまでいた。
▼ソロソロとクルマを近づけて停車、カメラを取り出すためにドアを開けて外に出たとたん、大量の風船が空に放たれるように飛立ってしまった。残念ながら飛び立ち遅れた者しか撮影できなかった。

▼この光景が何故見られたかは分からない。ひとつだけ思い当たるとしたら、交通事故に遭ったエゾシカが道路脇に放置されていたのかもしれない、ということだ。酷寒で捕食の難しい時期、久しぶりの馳走に群がったのかもしれない。しかし、あの光景は間違いなく「呉越同舟」だった。生き物はサバイバルのためには、「呉越同舟」を平気でする。う〜む、深い喩えではある。