【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 SL、この無骨なる律義者!

『なにものだろう 地平に一条の白い煙はあがり 力強くやって来る 近づいてくる 黒い鉄の塊 この無骨なる律義者… 』
稀代の詩人、谷川俊太郎の創作に対して誠に失礼な話だが、こんな力作があったと記憶している。関沢新一蒸気機関車写真集に載った一節だった。これほどSLの魅力をコトバで紡ぐ人がいるとは!強い衝撃を受けたのを覚えている。(でも、40年以上前に読んだ詩なので、文言が定かじゃない。谷川さん、ゴメンなさい!)
その40年前の衝撃を、今目の前で体験してる。釧路から川湯温泉まで(今の期間は標茶往復)1日1往復走る、SL「雪の湿原号」を待ってるのだ。
場所は釧網(せんもう)線、茅沼(かやぬま)駅前。タンチョウがすぐ近くにいる駅としても有名だ。

12:04分。無骨なる律義者は、ヤナギの林の中をかすかに白い煙をあげて、近づいてきた。4両の客車を引いている。動体保存されてるSLを見るのは何十年ぶりだろう!
待ち構えていたカメラマン達は一斉にシャッターを押す。尾骶骨からマグマのような熱い塊がせりあがってきた。「嬉しいことに、SLファンは死んじゃいない」勿論、だからこそ「冬の湿原号」は、観光列車として高い人気を誇っているのだ。
列車は駅にゆっくりと停車した。C11-207だった。何と70年近くも前に製造された固体。貨客両用として往時北海道の動脈を支えてた機関車だ。苦しそうに黒煙を吐いている。
これが見納めじゃないのに、何度も、何度もボロカメラのシャッターを押した。身体全体が熱くなってる。
12:06分。湿原号はひとしきり身震いしてから、ゆっくりと動き始めた。「ガンバレ!ガンバレ!ゆっくりでいいから、前進しよう。あえぎつつも前に進もう!」思わずそんな声を掛けたくなった。
それにしても、人は何故SLに郷愁を感じるのだろう?あえいだり、嬉しそうだったり、自ら鞭打ったり…無骨だけれど、律儀に働く。そうした人の人生にも通ずる表情を見せてくれるせいだろうか?

折しも、米大統領オバマが初の議会演説を行った。無骨じゃないが、律義者というSLの直喩がダブって見える
同大統領も、あえいでる。彼はアメリカという、雑多な思いを乗せた客車を何処へ引っ張っていくのだろう。
コチラにも声援を送りたい。ガンバレ!ガンバレ!