【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 ドバイ・ショック!

いつからかは定かじゃないけど、少年は「地理」が大好きだった。
「社会」の授業はいつもワクワクしていた。教科書に載せられている「火山」や「カルデラ湖」「断層」や「扇状地」、「河岸段丘」、「侵食」や「溶岩流」など、それまで知らなかった言葉が、現実の地形として周囲に無数に存在していたからだ。地域の地形が教科書そのものだったといっていい。

三日月湖」は何千年もかかって形成され、断層のズレは一瞬にして起こるという時間の旅も知った。
ある日、世界地図を見ていてふと気が付いた。アラビア半島とアフリカは、もしかしたら陸続きだったんじゃないか?
というのも、紅海の部分が左右から引っ張られて千切れたみたいに感じたからだ。和紙の両端を引っ張るとあんな感じで破ける。
そういう目で見たら、アフリカと南アメリカも同じ陸地だったものが引き裂かれたように凹凸のカタチがピッタリ合う。少年は陸地が動いているのをそこで実感した、がそのことは誰にも言わなかった。また法螺を吹いていると言われるのがオチだ。

代わりに、少年は動いていく大きな南の島を買うことに決めた。
そこは火山島であり、カルデラ湖や断層、滝による侵食、溶岩流や火山大地といった、社会の本に乗っていた地形が無数にある。しかもエメラルドグリーンのサンゴ礁付だ。
少年はその島にさまざまな施設をつくることにした。別荘、滝を利用したプール、ゴルフ場、高い火山にはスキー場・・、農園や牧場、フラワーガーデン、海底散歩道・・・。
算数の時間は殆どがその夢想の設計に当てられた。
夢想は大学生になっても続いていた。勿論、ドバイ・ショックなんて、想像のまた想像外だった。
だが、ある時急にこの夢想は終わりになった。理由は分からない。厭きたのかもしれないし、夢想はあくまで夢想と思ったのかもしれない。
後年、少年は思うようになった。「ユートピア」を手に入れるためには、それ以上の何かを犠牲にしなくちゃならない!
ドバイ・ショックは何を犠牲にしたのだろう?