【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 鹿に馬鹿にされた鹿猟!

枯葉の積もった山道を歩いている。午前5:30。まだ薄暗い。寒い!皆無言だ。そういえば、去年も同じ時間、同じように歩いてたなあ。ただし去年は3人。今年はご一行様4人だ。去年の立役者、アイヌ犬「サスケ」もいない。
突然「いた!」と、チーさんの押し殺した声。銃口で斜め前を指してる。見れば薄暗い丘を黒い影がピョンピョン跳ねて向こうへ行く。一頭、二頭、三頭…全部で六頭。ホンの10数秒で薄闇のなかに溶け込んでいった。狙いを定める暇もない。
「あんなの見ちゃって、今日はだめだべなあ」。チーさんがポツリと言う。言葉通りだった。行けども行けども、一頭も見ない。「鹿少なくなったからなあ、皆、知床へ行っちゃったんだ。あそこなら撃たれねと知ってるから」。結局9:00で銃を収める。猟場を移動するんだな?
30km離れた庶路(しょろ)ダムまで移動。先週はこの上で、7年モノの雄を撃ったという。集材道を登る、降る。また登る。かつて伐採した木を運び出す道だけに、熊笹をヤブコギするよりラクだ。だが、すぐに息が上がった。キツイ!
チーさんが突然、ヤブに入った。いたのか?見上げると動きが止まった。至近距離から「クゥィーン!」と鹿の鋭い鳴き声。「すぐ近くにいる!」息を殺してチーさん動きを凝視する。あのぐらい近くなら仕留めるだろう。
10秒、20秒、30秒…。発射の瞬間を待った。また至近距離で鳴き声がした。どうやら藪の中にいるらしい。だが銃は発射されない。やがてチーさんが戻ってきた。「逃げられちゃったの?すぐ近くにいたのにね」。そう声を掛けると、皆が弾けるように笑った。「ありゃチーが吹いた鹿笛だ。そんなことも分らんで鹿撃ちに付いてきてるのか?」クーさんが哄笑しながら馬鹿にする。そうだったのかあ?いやはや、参ったね!「こりゃ、今日はダメだあ」イシさんは呆れ果てたように嘆息した。
それから、山の中を彷徨うこと数時間。一回だけ発射したが、外れた。一回だけ、沢の目の前に立ってたけど、構える前に逃げられた。「コッチの様子を見てた。馬鹿にしてるんだ」。チーさんの口が重くなった。
「帰ろう」。先週射止めた大物の角を切り取った。大きな角だ。イシさんが持って帰って友人の社長にあげるのだと言う。
帰りの車の中で、鹿肉のビジネス化の話をしようと思ったが止めた。また後にしよう!帰宅したのは16:30。歩数計11,952歩。脚が痛い。それにしても今日は「鹿に馬鹿にされた」一日だった。だが見上げれば夕焼けだ。明日はいいことあるさ。