【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

アイヌネギ(行者ニンニク)群落!

全身から野生を感じる人がいる。お馴染み山菜名人のジイチャンがそうだ。
深くきざまれた顔の皺。腰は90度近く曲がってる。だが足の速さといい、鋭い目配りといい、老いた感じはまったくない。まるで“縄文人”を感じさせるのだ。
その“縄文人”が「ショーバイ!ショーバイ!」と言いながら疾風のように先を急いでる。
「獲物はアイヌネギだ!」と思った。
最近、アイヌネギは健康食として都会でも注目を浴びてる。
安定供給を目指して養殖も始まったという。かつては殆ど自家の保存食だったものが、ビジネスになるのだ。
4時間後、パンパンに膨らんだリュックを背負い、ビニール袋を右手に下げて“縄文人”は戻ってきた。中味を見せてもらう。大きい!太い!小指近くの太さがある。
「昔ゃ、親指ぐらいのもあったけん、最近はこんなのばっかしだ。ダメだなあ、造林ばかりやっちゃったし、人が増えたんべ。親指になるのに10年も掛かるのに、細いのもみんな持ってちまう。シャベルで根っこまで持ってちまうモンもいる」。“縄文人”は嘆いた。
だが、“縄文人”の嘆きとは別に狩の血が騒ぐ。ウズウズしてくる。「採りに行こ」。
勿論「どこの場所?」とは聞かない。「山歩いて、自分の足で探せ」と言われるのがオチだ。
今年は何箇所か知ってるモンね!
苦言を呈する“縄文人”を見送ると、そそくさと準備をし、イザ山へ。7分ほど走ると現地だ。
「出てる!出てる!」。先刻のものとは比較にならないが、出てる!ここは自分だけの穴場、アイヌネギの群落だ。山の傾斜がきついだけに、なかなか人は入ってこない。
細いのは避けて一握りほど採る。夕食の分だけあれば充分だ。1時間ほどで戻った。

コチラの人は醤油漬けが美味いと言うけど、「今夜は天ぷらにしよう」。調理。アイヌネギの強烈な匂い。何といったらいいだろう、玉ネギとニラとパセリが混ざったような匂いだ。
パリパリに揚がった天ぷらを肴に一献。野生の香りが口の粘膜を刺激する。酒が進む。
「“縄文人”さん、ゴメンなさい!細いの持って来ちまいました。確かにこのアイヌネギ、もしかしたら絶えちゃうかもしれん。でも血も騒ぐんだよね、悩ましいところだなぁ。健康には圧倒的にいいと言うし・・・」。
酔った脳がそんなことを言い始めた。もう寝よう。
翌朝・・・。3:17に少年のような元気さで目が醒めた。