【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

  世界遺産「知床」の冬

戦後の日本の芸能界をけん引してきた森繁久彌氏が10日、永眠した。享年96の大往生だった。
同氏が作詞・作曲を手がけた名曲「知床旅情」は後に加藤登紀子も歌い、大ヒット曲になった。ご当地ソングの走りといっていい。若かりし頃、飲み屋の閉店時間が近づくと皆でこの曲を合唱したものだった。
追悼の意を込めて、冬の知床を訪れてみようか。
知床半島は、犀の角のようにオホーツク海に突き出している。
静岡県伊豆半島と同じように、知床半島も太平洋から流れ着いて北海道に合体したようにも思える。
峻険な山々が、いきなり海を突き刺すような断崖となって地の底に続いている。手付かず、というより手を付けられるのを拒む背骨剥き出しの半島、まさに犀の角である。
冬を間近にした知床は、人の出も少なく静かだった。知床横断道路はすでに閉鎖されてる。
知床旅情」の歌詞、 ♪別れの日は来た 羅臼(ラウス)の村にも♪ とは反対の、ウトロ側からアプローチした。羅臼岳は冬に対峙すべく険しい表情を見せていた。
横断道路は閉鎖されてるが、知床五湖にはまだ行けるらしい。ここまで来たからにゃ、訪ねにゃなるまい。
知床五湖のうち一湖とニ湖だけを回った。いつもながらの神秘的な湖、なぜか声を上げるのさえ憚られる。
こんな自然にはなかなか出会えない。この清浄な自然が日本で13番目の世界遺産に登録された理由だろう。しかし、自然遺産は問題含みであることも事実だ。
駆除禁止のエゾシカは森林被害をもたらし、シカの増殖でヒグマも増えてるという。
道路には「ヒグマ、餌やり禁止」の看板が目立つ。生態系は遺産指定とは関係なく、別の回路で動いているのだ。
それを維持するためには膨大な努力が必要だ。国も地域も人々も「素晴らしい自然だ!」の一言では済まされない。生態系全体を深く思索する必要がある。
カラダの芯まで知床の冬を染み込ませて帰路についた。
途中、「地の涯」(ちのはて)温泉に寄る。旅館は閉鎖されてたが、露天風呂はすぐに入れるほど熱かった。これももうすぐ雪に埋もれちゃうんだろうか?
昨日の雨で増水の「オシンコシンの滝」は、立ち止まってる間も途切れることなく膨大な水と時間を迸り流してる。

♪忘れちゃいやだよ 気まぐれからすさん♪と、森繁は歌った。
そう、忘れちゃイカン、自然遺産は単に一過性の観光客を集めるものじゃないことを。この自然を継続可能な未来にすることを。
そして、たった一曲の歌が地域に誇りと活力を生み、地域おこしに繋がることも。
森繁さん、中学生時代「ラジオ名作劇場」で随分勉強させていただきました。ありがとうございました。
これからは「志ん生」師匠などとも酒でも酌み交わしながら楽しく過ごしてください。
昭和の巨星に献杯