【スローライフ阿寒】

自然の中に置かれると人は何を、どう、考えるのか、ゆっくり対話しながら生きたい

 タンチョウvsオジロワシ!

生きるための壮絶な闘いが始まった!
オジロワシが、羽音鋭く戦闘機のように急降下する。タンチョウが「クワーッ」と怒りの声を上げる。
200羽近いタンチョウと、15羽ほどのオジロワシ・・・特別天然記念物vs特別天然記念物、野生同士のバトルだ。冬場、毎日14:00から始まる息を呑む白兵戦である。

戦場は、タンチョウ保護のために整備された「阿寒国際ツルセンター」。
タンチョウの給餌のために与えられる生き餌ウグイが、野生同士の生存と意地をかけた争奪戦になる。
この日は一週間ほど前の道新に、オジロワシとタンチョウの迫力満点のウグイ争奪戦写真が掲載されたことから、カメラマンが異様に多かった。20人ほどの外人カメラマンを含めて、200人近くはいるだろうか。
タンチョウ夫婦の愛のエール交歓と求愛ダンスの羽音、そしてシャッター音。それ以外は、殆ど音がない。
息を潜めてただその時を待つ。あと5分、あと5分で14:00になる。
係員がバケツを持って給餌場に入った。バケツから雪上に撒かれたウグイの跳ねる音。飛び掛かるタンチョウの群。
と、どこからとも無くポツンと鳥の影が現れた。グングン大きくなってくる。「オジロワシだ!」。
まるで、中距離爆撃機のようである。別の方向からも、ひとつ、ふたつ、みいっつ・・・全部で10ぐらいの翼が上空を旋回し始めた。
広げると2mと言われる大きな翼。白い尾羽が壮観だ。猛禽類特有の鋭い目が標的を探している。
始まるぞ、と思う間もなく一羽が急降下した。
タンチョウの群に悲鳴が走る。その悲鳴を切り裂いてウグイをワシ掴みするオジロワシ。まるで戦争映画を見ているようである。急降下攻撃は真上から、超低空から、右斜めから、左斜めから、何度も繰り返される。
「ウォーッ」というカメラマンの声、カシャカシャ飛ぶシャッター音・・・。野生同士の戦場は、俄かに人間と野生との戦場にも変化した。戦争に参加している実感で尾てい骨が熱くなる。
アフガニスタンに参戦してる米兵は、こんな感じなんだろうか?
カメラで上空、地表を追いかけること15分、フッと攻撃の回数が少なくなったような気がした。いつの間にか、空は元の平穏な空に戻りつつあった。
タンチョウも編隊を組んで少しずつ飛び立ち始めてる。と、群の真ん中をトコトコとキタキツネが歩いて行った。
「ホレ、ホレ、今日の戦争はお終いだ。とっとと帰っとくれ。明日また待ってるよ」。あたかも幕引き係である。
・・・ウチから北へ3.8km。車で4分。こんな近くで野生同士、それも特別天然記念物同士の闘いが、毎日繰り広げられている。
ここにはビルの谷間の便利さはないけど、生きものの原点を実感する感動がある。野生と人間の係わり合いなど、問題はいろいろあるけど、要はそれが好きか、嫌いかだ。
都市生活を満喫してらっしゃる方、時にはこんな暮らしを体験してみるのもいいっしょ?